櫛挽道守
木内 昇
集英社
江戸にも京にも、腕の立つ櫛師はたくさんおるんや。
それぞれ秀でた芸を持っとって、商いの上でもうまいことやっとる。
ただわしには、どの師匠もさほどの腕とは思えんかった。
吾助さんが一番やったいうのはまことのことや。
それまで出会った櫛職人とは、頭ふたつもみっつも出とるように思えたんや。
江戸ではな、職人同士がえらい競い合っとる。
そのせいか、いらんしがらみも多い。
独り立ちするには誰それの後ろ盾がないとあかん、
誰それにつけば楽や、
どこの商人に取り入るのがええと、そんな話ばかりが飛び交っとる。
弟子の中には、技磨くのそっちのけで力のある者に媚びへつらう奴もたんとおる。
実際に胡麻擂った奴がええ目を見たりもしとる。
わしは、そないなさもしいやり方に収まる器やない、そないな半端な腕やないと、わかっとったさけな。
そないなくだらないことに刻を割くんやったら、なんのしがらみもない山奥で試してみようと思ったんや。
木内 昇
集英社
江戸にも京にも、腕の立つ櫛師はたくさんおるんや。
それぞれ秀でた芸を持っとって、商いの上でもうまいことやっとる。
ただわしには、どの師匠もさほどの腕とは思えんかった。
吾助さんが一番やったいうのはまことのことや。
それまで出会った櫛職人とは、頭ふたつもみっつも出とるように思えたんや。
江戸ではな、職人同士がえらい競い合っとる。
そのせいか、いらんしがらみも多い。
独り立ちするには誰それの後ろ盾がないとあかん、
誰それにつけば楽や、
どこの商人に取り入るのがええと、そんな話ばかりが飛び交っとる。
弟子の中には、技磨くのそっちのけで力のある者に媚びへつらう奴もたんとおる。
実際に胡麻擂った奴がええ目を見たりもしとる。
わしは、そないなさもしいやり方に収まる器やない、そないな半端な腕やないと、わかっとったさけな。
そないなくだらないことに刻を割くんやったら、なんのしがらみもない山奥で試してみようと思ったんや。